読んだもの・食べたものの防備録

<本>「労働法の「常識」は現場の「非常識」 程良い規制を求めて」(著者:小嶌典明)

絶版となってしまった「職場の法律は小説より奇なり」の全面改訂版ということで思わず購入。

本書においても、大学の人事労務という「現場」の仕事を経験した労働法学者ならではの視点、そして統計というエビデンスに基づく客観的な視点に基づいた小嶌先生節はご健在。

 

ささやかながら、労働法に関わる分野で仕事をしている身にとっては、非常に示唆に富む指摘が多数。

例えば、就業規則の義務化に当たっては、既に自主的に就業規則制定の取り組みが進んでいたという実態があってのことだった、との指摘を踏まえると、現在若者や女性に関して異常なほどアクセルをかけて活躍推進に取り組んでいることを見るにあたり若干の反省を要するようにも思われる。

 

また、再三にわたり述べられる、「出来ないことは約束しない」ということは正にその通り。そのためには、行う「約束」がどのような権利を生じるのかについて、十分予見しうるだけの知識と想像力が不可欠だと自戒。

 

少数組合の団体交渉権を巡る課題についても、大学という特にそのことが問題となりやすい現場で苦労されたからこそ、団体交渉権を認めるに当たっては組織率に一定のたがをはめるという、非常に全うな提案がなされている。よく労働関連法規違反で合同労組に駆け込む事例などがあるが、法違反があるのであれば、それは法違反の枠組みで争えば足りるのであり、団体交渉権という、過度に強力な刀を振りかざす必要が本当にあるのか。

 

この分野においては、多かれ少なかれ(被害)妄想に基づく主張が幅を利かせている中で、このような著書が出されることは、私のような労働分野初心者にとっては誠に有り難い限り。

 

労働法の「常識」は現場の「非常識」

労働法の「常識」は現場の「非常識」